子育て情報
かむ習慣は、5歳までに身に付けよう!
子どもの心身の発達に大きく影響する、かむ力。かむことの大切さを知って、早くから習慣付けましょう。
人間にとって、かむことは、生きていくための大事な行為。でも最近は食生活が変化して、軟らかい物ばかりを食べるようになったため、特に子どものかむ力が弱くなってきています。かむことには想像以上にたくさんの利点があり、こどもの心身の発達のためにもとても重要です。かむことの利点を見直し、かむ力を育てるための工夫をしていきましょう。
かむと、いいことがたくさん!
@あごを発達させる
あごが弱かったり、ゆがんでいたりすると、体全体の筋肉や姿勢に大きく影響します。幼いころからかむ動作をたくさんすることで、あごの骨は強く丈夫になり、大きく育ちます。あごが大きく育たないと、永久歯に生え替わったときに歯並びが悪くなってしまいます。
Aだ液の分泌が増える
よくかむと、だ液の分泌が増えます。だ液にはたくさんの酵素が含まれていて、食べ物を消化吸収しやすくするなど、さまざまな働きをします。さらに、カルシウムと結び付いて歯を強くしたり、口の中を清潔に保ったりして、虫歯を予防します。また、がんや老化の原因となる活性酸素を消す作用もあることが分かってきています。
B食べすぎを防ぐ
たくさんかむと、脳内で神経ヒスタミンなどの化学物質が増えて満腹中枢が刺激され、満腹感が得られます。これによって食べすぎを防ぐことができるので、最近子どもにも多い肥満を防止する効果があります。
C脳を発達させる
たくさんかむと、脳が刺激されて血液の流れが活発になり、脳が活性化されます。特に、脳の中でも「前頭前野」という、人間の知性にかかわる部分が活性化されるようです。前頭前野が未発達だと、いらいらや衝動的な行動を抑えられなかったり、物事を計画し、判断して行動することが難しくなったりします。最近よく「キレる」子どもが問題になりますが、これも前頭前野の機能が未発達、あるいは低下しているためと考えられます。
D気持ちを落ち着かせ、集中力を高める
かむことで、脳内に緊張を和らげる化学物質が増え、気持ちを落ち着かせることができます。プロ野球の選手などが試合中にガムをかんでいる光景を見たことがありませんか? これは、かむことによって緊張感やストレスを抑えてリラックスするため。また、かむことには、集中力や記憶力を高める効果もあるようです。
E豊かな表情が生まれる
幼いうちから頻繁にかむことで、あごだけでなく頭蓋骨全体がバランスよく成長します。口を動かすことで表情も豊かになり、美しい笑顔が生まれます。
かむ力を育てるための疑問と工夫
実は子どもは、おなかの中にいるときから指しゃぶりをし、生まれたら母乳を吸うことで、かむ訓練を始めています。2〜3歳には乳歯が生えそろって、かむための準備が整い、5〜6歳までに大人の3分の1程度までかむ力がついてきます。
かむ力をしっかり育てるためには、4〜5歳ぐらいから、ある程度かみごたえのある物を意識的にとるようにして、かむ訓練をするとよいでしょう。体が軟らかい幼児期のうちに気を配れば、あごが健やかに発達し、歯並びもよくなります。乳歯が永久歯に生え替わる前までが、かむ習慣を身に付ける大事な時期なのです。
・どんな物を食べたら、かむ訓練になる?
乳歯が生えそろったばかりの2〜3歳児は、リンゴや柿など、少し硬めの果物から始めて、かみごたえのある物を少しずつ取り入れるようにしていきましょう。
4歳ごろからは、弾力のある物をかむのがいちばん。おせんべいのようなパリッとした硬さではなく、ぐにゃぐにゃした物を左右にすりつぶすようにかむことが大事です。具体的には、セロリやゴボウ、レンコンなどの繊維の多い物、あるいはするめや切干大根やたくあん、フランスパンなどもよいでしょう。セロリやゴボウなどは、子どもにとっては食べにくいかもしれませんが、短冊切りにして、ケチャップなど子どもが好きな味のソースを付けるなどして工夫してみてください。
また、少し硬めのガムやグミをかませてもいいでしょう。最近は、子ども向けのかむ訓練用のガムやグミなどもあるので、飲み込んでのどを詰まらせる心配がなくなったら、試してみてもいいかもしれません。
かむ力の発達には個人差があるので、無理をせずその子のペースに合わせて、様子を見ながら挑戦していくように注意してください。
・何回ぐらい、かんだらいい?
ひとくち食べ物を口に入れたら、はしやフォークを置いて、30回かんでみましょう。手をたたきながら楽しく数を数えるなど、ゲーム感覚でできるといいですね。30回もかむことは、意識しないとなかなかできませんが、よくかむことで消化がよくなり、食事をじっくりと味わって食べる習慣も身に付きます。
・かむときの姿勢、どんなことに気をつける?
大事なのは、足がしっかり床に着いていること。足がぶらぶらしていると、しっかりかむことができません。いすに浅く腰かけて、ひざを直角にして座り、床を踏みしめることで、骨盤がまっすぐ安定して、せき髄から頭までがふらふらしません。食べるときの姿勢の悪さは歯並びの悪さにもつながるので、気をつけましょう。
・かみ方がおかしくないかどうか、見分け方は?
右左両方の歯でまんべんなくかんでいれば問題ありません。もし、片方だけでかむ「片がみ」のくせがあると、かみ合わせが悪くなるだけでなく、あごや顔、姿勢のゆがみにも影響するので、なるべく早く治したいもの。かみぐせを知るためには、少し硬い食べ物をかませてみて、右側と左側のどちらの歯で頻繁にかんでいるか、クチャクチャと音を出してかんでいないか、ろくにかまずに飲んでいないかなどを見てみましょう。
どちらの歯でかんでいるかが分かりづらいときは、舌を「ベーッ」と出させてみて、どちらに曲がっているかを見てみましょう。まっすぐに舌が出ていれば、片がみの心配はありません。どちらかに曲がっていたら、そちら側の歯でかむことが多いと分かります。
片がみのくせを治すには、ガムやグミ、するめなどを使い、かんでいないほうの歯でかませるようにします。また、かむ練習をするときは、食事以外に訓練の時間を設けるのがこつ。食事のときに訓練しようとすると、食べることを楽しめなくなってしまいかねないので、お勧めできません。
・乳歯がすき間なくそろっていると、将来、歯並びが悪くなる?
乳歯が生えそろったばかりの2〜3歳ごろは、すきまなく歯が並んでいても大丈夫。あごが発達するに従ってすきっ歯になり、永久歯が生えても大丈夫なゆとりができます。ただし、あごが発達しないままだと、永久歯に生え替わった際に歯並びが悪くなってしまいます。そうならないためには、かんであごを動かすことはもちろん、舌や唇をよく動かすことが大切です。
また、生え替わりの時期には、歯が抜けた跡の部分を避けようとして、偏ったかみ方になることもあります。抜けた直後は無理をする必要はありませんが、歯のない部分も気にせず、まんべんなくかむようにしましょう。
・子どもの歯ぎしり、治したほうがいい?
歯ぎしりをしているときは、意識して歯を食いしばったときの3倍以上の力が歯にかかっています。歯がすり減るだけでなく、あごの骨も成長しにくくなるので、あまりひどい場合、放っておくのはよくありません。マウスピースをするなどして治すことができるので、小児歯科医に相談してください。
監修:
田賀ミイ子(田賀歯科医院院長)