Vol.14<北海道紋別郡遠軽町>
林太郎へ
東京は桜が満開と聞きました。父ちゃんがいる北海道紋別郡遠軽町は、積もった雪がやっと解けはじめたところです。雪で覆われていた畑のところどころに見える黒い土は、海に浮かぶ島のようです。よく見ると、土には緑色の小さな芽がきれいに列をつくって並んでいます。
「これは〜……小麦だよ!」と教えてくれたのは、4月から小学校5年生のはやと君。父さんは、麦の赤ちゃんが雪の下で冬を越すことを初めて知りました。
はやと君のお父さんとお母さんは、農業を始めるために東京から15年前にこの場所に越してきたそうです。はやと君ちの大きな畑では、毎年、初夏には小麦、夏から秋にかけてはジャガイモ、カボチャなどがたくさん採れるそうです。でも、はやと君ちのジャガイモが一番おいしいのは、ちょうど冬を越したこの季節です。秋に収穫したジャガイモは冬の間、倉の中で眠ります。腐ることも凍ることもない…、倉はジャガイモにとって最高の寝床です。冬を越したジャガイモはとっても甘く、掘りたてとは違ったおいしさです。
雪でよく焼けたはやと君の笑顔と、最高のジャガイモの味が、春の北海道の、忘れられない思い出になりました。
(2014年4月)
公文健太郎プロフィール
1981年生まれ。1999年から、ネパールを舞台にドキュメンタリー写真を撮り続け、写真集やエッセイ、写真展などで発表。また、近年は世界各地にテーマを持ち、作品づくりを続けている。写真集に『大地の花―ネパール 人びとのくらしと祈り―』(東方出版)、『BANEPA―ネパール 邂逅の街―』(青弓社)、フォトエッセイに『だいすきなもの―ネパール・チャウコット村のこどもたち―』『ゴマの洋品店―ネパール・バネパの街から―』(ともに偕成社)などがある。2012年日本写真協会新人賞受賞。