Vol.16<長野県上水内郡>
林太郎へ
林太郎はリンゴの樹がどんなだか知っていますか? あの赤くて真ん丸な実からは想像できないごつごつとした力強い形をしてるんですよ。
父ちゃんが今日訪れた長野県上水内郡は、リンゴの産地として知られています。ちょうどこの季節は、そのごつごつの樹が満開の花で飾られています。
リンゴ農家さんは朝早くから忙しそう。「きれいですね」と話しかけると、「そうかねー?そういうもんかねー」と不思議そうな答え。どこからどう見たって白くてかわいらしい花が一面に広がる景色は美しいのに。
「いやーとにかく忙しいのよ。兄ちゃん、花摘みって知ってるかい? おいしいリンゴを作るためには、こうやって枝に花を一つだけ残して、あとはみんな摘み取ってしまうんだよ」「リンゴはただ待ってりゃ勝手になるもんじゃないんだよ。冬は剪定(せんてい)、春は花摘み、夏は薬をまいたり・・・・。大変なんだ」
なるほど、リンゴの赤い実一つからごつごつとした樹が想像できないのと同じように、かわいらしい花も育ててる人たちにとっては大変な苦労の種なんですね。
(2014年5月末)
公文健太郎プロフィール
1981年生まれ。1999年から、ネパールを舞台にドキュメンタリー写真を撮り続け、写真集やエッセイ、写真展などで発表。また、近年は世界各地にテーマを持ち、作品づくりを続けている。写真集に『大地の花―ネパール 人びとのくらしと祈り―』(東方出版)、『BANEPA―ネパール 邂逅の街―』(青弓社)、フォトエッセイに『だいすきなもの―ネパール・チャウコット村のこどもたち―』『ゴマの洋品店―ネパール・バネパの街から―』(ともに偕成社)などがある。2012年日本写真協会新人賞受賞。