Vol.19<山梨県山梨市>
林太郎へ
大きいのに小さいの。緑に、黄に、赤に、紫に、黒。形も色もまったく違うブドウたちがゆらゆらと揺れています。ブドウにこんなにたくさんの種類があることを父ちゃんは初めて知りました。
ここは山梨県山梨市のブドウ園です。薬をまったく使わずに育てられたブドウ。皮ごと口に放り込むとそれぞれに違った味が口の中に広がります。
ここにはたくさんの虫たちがいます。特に多いのがクモ。父ちゃんは何度クモの巣に引っかかったことか。でもこのクモたち、ブドウにとっては良くない虫たちを食べてくれるいいやつなのです。
それと蚊です。こっちはほんとうに困ったやつです。ブドウを食べるのに熱中している父ちゃんたちは、ここに住むたくさんの蚊たちにとっては格好のごちそうです。このブドウ園は、人にとっても虫にとっても、最高の食卓なのです。
(2014年9月2日)
公文健太郎プロフィール
1981年生まれ。1999年から、ネパールを舞台にドキュメンタリー写真を撮り続け、写真集やエッセイ、写真展などで発表。また、近年は世界各地にテーマを持ち、作品づくりを続けている。写真集に『大地の花―ネパール 人びとのくらしと祈り―』(東方出版)、『BANEPA―ネパール 邂逅の街―』(青弓社)、フォトエッセイに『だいすきなもの―ネパール・チャウコット村のこどもたち―』『ゴマの洋品店―ネパール・バネパの街から―』(ともに偕成社)などがある。2012年日本写真協会新人賞受賞。