Vol.21<徳島県吉野川市>
林太郎へ
父ちゃんは今日、徳島県吉野川市のはちみつ屋さんに来ています。目の前にミツバチがいっぱいに入った木の箱がいくつも並んでいます。ハチたちは春になるとこの箱から飛び立ち、花のみつを吸っては箱に戻り、はちみつを作るのです。
養蜂(ほう)家の和利さんが箱のふたをそっと開けました。ハチたちが興奮してカメラを構える父ちゃんの目の前でブブブブブブブッ、と飛び回ります。ちょっと怖くなりましたが、和利さんは決まって一言。「うん。まあまあだな。よくも悪くもない」そして「それが一番いいんだよ」とうなずきながら付け足します。ふたを開けるたびにいつも決まって繰り返されるこの言葉に、なんだか父ちゃんは安心することができました。
太陽が昇り、暖かくなってくると、ハチの動きはいっそう活発になり、もう目を開けていられないほどです。でもずっとこうしていると、不思議とミツバチがかわいらしく見えてきました。
(2014年10月17日)
公文健太郎プロフィール
1981年生まれ。1999年から、ネパールを舞台にドキュメンタリー写真を撮り続け、写真集やエッセイ、写真展などで発表。また、近年は世界各地にテーマを持ち、作品づくりを続けている。写真集に『大地の花―ネパール 人びとのくらしと祈り―』(東方出版)、『BANEPA―ネパール 邂逅の街―』(青弓社)、フォトエッセイに『だいすきなもの―ネパール・チャウコット村のこどもたち―』『ゴマの洋品店―ネパール・バネパの街から―』(ともに偕成社)などがある。2012年日本写真協会新人賞受賞。