林太郎へ
父ちゃんの大好きな場所があります。鐵工所(てっこうじょ)です。昔、家の近くにも小さな鐵工所がありました。建物全部がさびてしまったような色をしていて、扉のすきまから見える工場の中はいつも真っ暗。でもときどき、ぴかっと雷のような青い光が工場の中を照らします。散らばる鉄の塊。全身を覆い隠して働く人たち。そんな鐵工所を見るのが好きで、父ちゃんはよく工場をのぞきました。
今日、父ちゃんは徳島県阿南(あなん)市の鐵工所に来ています。ヘルメットをかぶり、鉄板の入った重たい靴を履いて、工場の中の写真を撮りました。硬い鉄を切ったり、くっ付けたりして、大きな機械が次々と出来上がっていきます。ここで働くおじさんたちは、まるで青い光を放つ魔法使いのようでした。
1981年生まれ。1999年から、ネパールを舞台にドキュメンタリー写真を撮り続け、写真集やエッセイ、写真展などで発表。また、近年は世界各地にテーマを持ち、作品づくりを続けている。写真集に『大地の花―ネパール 人びとのくらしと祈り―』(東方出版)、『BANEPA―ネパール 邂逅の街―』(青弓社)、フォトエッセイに『だいすきなもの―ネパール・チャウコット村のこどもたち―』『ゴマの洋品店―ネパール・バネパの街から―』(ともに偕成社)などがある。2012年日本写真協会新人賞受賞。
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