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父ちゃんからの手紙

Vol.15 奈良県吉野郡十津川村

林太郎へ

 父ちゃんはえらい山奥に来ています。ここ奈良県吉野郡十津川村は、日本で一番長い路線バスが走っていることでも知られています。父ちゃんが目指す昭三さんの工房まで、バスで4時間もかかります。

 昭三さんの工房は山に囲まれた静かな村の中にあります。昭三さんは、この村最後の野鍛冶です。鍬や鎌など、畑で使う道具を作るお仕事です。急斜面や、藪の中での使い勝手を考え、柄の長さを工夫したり、軽くしたり、一つの道具で二役こなせるように改造したり、昭三さんにかかればとっておきの道具がうまれます。自分で作った炭を使い火をおこし、鉄を真っ赤になるまで温めます。80才を超える昭三さんが振り下ろす金槌は、ガチーン!ガチーン!と力強い音を立てています。

 「鍬やそんなもんは大したことない。刃物が大変なんや」と話す昭三さんに、父ちゃんは包丁を頼みました。いったいいつまた山道を通って取りにきたらよいのでしょう。 近くに大きなお店や、道具屋さんがないので不便なようですが、村の生活に必要な道具を一から作ってもらえる村の人たちはうらやましいですね。父ちゃんも、道具ができてくる楽しみを少しだけ感じることができそうです。

公文健太郎プロフィール

1981年生まれ。1999年から、ネパールを舞台にドキュメンタリー写真を撮り続け、写真集やエッセイ、写真展などで発表。また、近年は世界各地にテーマを持ち、作品づくりを続けている。写真集に『大地の花―ネパール 人びとのくらしと祈り―』(東方出版)、『BANEPA―ネパール 邂逅の街―』(青弓社)、フォトエッセイに『だいすきなもの―ネパール・チャウコット村のこどもたち―』『ゴマの洋品店―ネパール・バネパの街から―』(ともに偕成社)などがある。2012年日本写真協会新人賞受賞。

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