最近のCG(コンピュータグラフィック)の画像処理は目覚ましく進歩してきています。また、スマートフォンのゲームもますますリアルになってきています。それらの画像は、本当さを追及するあまり、いろいろなことをいとも簡単に本当のことのように見せてくれます。たとえば、空中を回転しながら回し蹴りをしたり、相手を何メートルもぶっとばしたり、ナイフで相手の腕を切ったり、さらには、地上何十メートルの高層ビルの屋上から相手を突き落したりなど、実にリアルで残酷なことを平気で見せてくれます。
それらを見る子どもたちは、自分も同じことをやってみたいという衝動にかられるのは不思議なことではありません。何よりもこわいのは、それらの行為に対して生じる痛みや苦しみが、仮想現実ですから実感していないことです。
友だちとけんかをしてなぐったときの手の痛みや殴られた時の痛みやそれにともなうショックを感じることで、「ああ、人をなぐったら相手は嫌なのか」「なぐられたら痛いんだよね」といった生の実感を味わってこそ、こういうことをしてはいけないということもわかってくるものです。
ご夫婦でもささいな口論や争いを重ねていくうちに、「こんなことを言ったら相手は傷つくのか」「こんなことをしたら相手は悲しむのね」ということがわかってきて、いつしか、相手をいたわる、思いやる気持ちが備わってきます。
ですから、大人も子どもも、乱暴な言い方ですが、いろいろなトラブルを経験してはじめてそれに伴う感情を実感し、やってはいけないこと、言ってはいけないことの判断がついてきます。
文明の進歩はとめることはできません。今後もバーチャルな世界【仮想世界】の映像化はどんどん進化してくるでしょう。そして、子どもたちも間接経験による空間がどんどん広がってくるでしょう。その進歩はどこまでいくのか残念ながら予測できません。ただ、自分の手足を使わない、視覚的な経験、実際に体を動かさない経験(これを経験と呼べるのでしょうか)が大きくなってくるのは推測できます。だからこそ、生身で体験できることは少しでも多く、今のうちに体験させてあげたいものです。
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