学研教室で多くの子どもと触れ合い、指導をする先生に、教室の様子や考える力を伸ばす関わり方についてお話を伺いました。日常生活ですぐに実践できるヒントも詰まっています。
三戸さとみ 先生
学研教室 和田堀ノ内教室/杉並松ノ木教室
東京都杉並区の教室で20年間指導にあたり、独自のアイデアを活かした指導で子どもたちの力を引き出している。
学習前の準備で集中を
教室を開いて20年。当初は我が子を含め、5名でスタートした教室も今は2教室で160名となりました。近所はもちろんですが、遠方からも車などで多くの生徒が通ってきています。そのうち幼児の子どもは13名。小学生に混ざって学習することも多いのですが、お兄さんやお姉さんにも負けない集中力で楽しんで学習をしています。
教室で大切にしていることのひとつに学習前の準備があります。それは机の上を整理し、姿勢を正してから学習を始めるというもの。こうすることで、幼児であってもきちんとけじめが付けられ、学習に対する構えも変わります。また、こういった基本的なことが習慣になると、今後の学習への姿勢もおのずと決まってくると思います。
考える力とは、アウトプットする力
「考える力」を育むためには、子ども自身の思考で情報を整理し、問題を解決する経験の積み重ねが必要になります。最近は、生活環境の変化から、タブレットやスマートフォンが身近な存在になりました。子どもたちは情報機器に慣れ、いつでも情報をインプットできる環境にあります。しかし、得た情報を自分のものにして、アウトプットする力が不足していると思います。
大人でもそうですが、情報を得るだけ、見るだけでは決してそれが身に付くことにはなりません。例えば、料理の様子を見ているだけで、同じように料理ができるようになるかというと、そうではないと思います。それと同じで、子どもは得た情報をきちんと整理し、それを元に自らが実際に経験することで「考える力」をはぐくみ、アウトプットができるようになるのだと感じています。
体験を通して興味や気づきを引き出す
幼児期に身に付けたい能力は、言語力、弁別力、観察力、構成力、数量理解力、記憶力、推理力、運動機能能力です。教室で解く「ちえ」という分野のプリントは、子ども自身が持つ情報を総動員して解き進める教材で、これらの力を総合的に伸ばします。
さらに教室では、プリントに積み木の絵が出てきたら、それと同じように実際の積み木を積み、手を動かす体験をします。ひとつのことに丁寧に向き合うことで、情報をきちんと整理し、深く正しい理解ができるようになるのです。また、このような具体的な物を用いる学習は、子どもの興味を引き出すことにもつながっていきます。
学習したことを生活の場で生かして
教室での学習をその場限りにせずに、それを身近な場で体験すること。これが大切だと思います。例えば、時計の時刻を読む学習をしているときには、家庭の時計もアナログにして、子どもが時計を読む機会を設けるのです。学習したことが生活の場で生きることで、子どもは知る喜びを得ます。そして、さまざまなことをもっと知りたいと興味の幅が広がっていくのだと思います。
待って褒めることがやる気に
子どもが悩む姿を見ると、ついつい指示をしたくなるかもしれませんが、周囲の大人は「待つ姿勢」を持つことが大切です。
子どもには完璧を求めず、個々の発達や成長の様子をみて、その時々の成長を褒めて認めるようにしています。親ではない人にほめられることは、自信につながり、もっと頑張ろう、もっとよくなろう、というやる気を引き出す、自己肯定感のアップにつながると考えています。
谷越由香 先生
学研教室 朝霞たきのね教室/志木教室
ボランティアで学童教室や幼児サークルなどで指導も行う。豊富な経験から、子どものやる気や好奇心を膨らませる指導をしている。
周囲とコミュニケーションをとりながら
教室を開いて5年、現在は2つの教室で60名の子どもたちが通っています。幼児はそのうち約10名、楽しそうに学習に取り組んでいます。最初は落ち着きのなかった子も、しっかり座ることを身に付けて、やる気が出たり、自分で問題が解けたときの喜びを知って、より頑張ったりする姿が見られます。
小学生に混ざって学習をすることもあるため、子ども同士の関わりからコミュニケーションのとり方も覚えていきます。忘れ物をした子には、どうすればいいのかを考えてもらいたいので、基本的に物を貸さないことにしています。すると、幼児でも小学生のまねをして「●●を貸して」と言って、友達に忘れ物を借りています。そして「ありがとう」とお礼を言い、「どういたしまして」と返事をするやり取りがきちんと身に付いています。このような姿勢は、子ども同士が年齢に関係なく触れ合うことではぐくまれるものだと感じています。
手を出しすぎず、上手にヒントを出す
長い間、たくさんの子どもと関わってきて感じていることのひとつに、好奇心の塊のような子が減ったことがあります。「なんで、なんで?」と聞く子が少なくなり、知識を得ることにどん欲でない子が増えているのではないかと思うのです。
また、子どもの“考える力”にも変化を感じています。小学生によく見られることですが、今の子には“面倒くさがり屋さん”が多いのです。せっかく「これ何?」と興味を持っても、「じゃあ、辞書で調べてみようか!」と言うと、「面倒だからいい」と言うのです。先生が答えを教えてくれるなら知りたい。でも自分で考えたり、調べたりすることは嫌だと思ってしまうのです。
わたしは、子どもと一緒に何かをやる時間を共有し、上手にヒントを出すことで、考える力は伸ばせると思います。例えば、迷路の問題を解くときには、手を出して一緒にやるのではなく、「やみくもに進まずに、必ず分かれ道では止まって、ひと呼吸を置くようにしようね」と言葉で伝え、やり方を丁寧に教えます。こうすることで、子どもは甘えを見せず、自分でやる力を身に付けられるのです。そして、個々のペースや成長に合わせ、できたことをきちんと認め、達成感が得られるようにすること。その繰り返しがやる気をどんどん膨らませるのだと思います。
保護者と一緒に細やかな指導を
指導では、「先生はあなたが大好き」と必ず伝え、愛情を持って子どもと向き合うことを大切にしています。また、幼児期の子どもの力を伸ばすためには、保護者の協力も不可欠です。そこで、保護者に「わたしはお子さんを我が子のように大切に思っています」と伝えた上で、「一緒にお子さんのことを考えていきましょう」と話しています。
教室で使う幼児用のプリントには、紙を切ったりはったりする作業がたくさんあります。そのときに子どもには、「脳と指はつながっているから、指を使うことはいいことだよ」と話をして、指先にのりをとって付ける作業をじっくりやるように指導しています。保護者には「器用に作業ができるようになると、いろいろな面で役立ちますよ。一緒に器用な子を育てましょう」と伝え、スティックのりではなく、指で塗るタイプののりを用意してもらっています。細かいことですが、物事は最初が肝心。この時期にきちんと身に付けてほしいことは、保護者の協力を得ながら、細やかに見ていくようにしています。
日常の経験で力が伸びる
わたしはいつも保護者に「何でもいいので、子どもと一緒に経験してください」とお話をしています。例えば、雨の日に傘をさして教室まで歩いて通うことも、考える力を伸ばすことにつながります。水たまりに入るとどのような感触か、水たまりを強く踏むと水はどのようにはねるのかなど、身近なところに考える力を伸ばすヒントはたくさんあるのです。
買い物ひとつでも、一緒に出掛ければ、お金の使い方を通して算数などの勉強になりますし、レジに並んで順番を待つことはマナーの習得へとつながります。これらは子どもが成長して手が離れてしまうとできないことですから、幼児期の今がチャンスです。今だからこそできることを大切にしてほしいと思います。
また、子どもはいろいろと失敗を通して成長をしていきます。親は子どものことをじっくり待つようにし、さまざまな経験や失敗を恐れないでほしいと思います。そして、失敗をしたときには、どうすればいいのかを一緒に考えてあげることが、考える力ややる気のアップへとつながるのだと思います。
二人の先生のお話から、子どもの「考える力」や「やる気」を伸ばすための共通点があることがわかりました!それは……。
①じっくりと子どもを待つ姿勢
②子どもをしっかり褒めること
③紙面上だけではない、手や実際の物を使った丁寧な学習
④学習を生活の中で生かすこと
この4点を意識して、毎日を送ってみると子どもが変わった!と実感されることも出てくるのではないでしょうか。さあ、今日から実践してみましょう。
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