幼児を犯罪から守るためには、保護者が目を離さないことが基本です。けれども、時には親から離れて友達と遊ぶこともあります。また、小学校に入学すれば、1人での登下校が始まるケースもあります。身を守るための基礎を、今から親子で身に付けておきましょう!
監修/武田信彦(「うさぎママのパトロール教室」主宰、安全インストラクター)
構成・文/小園まさみ イラスト/カワダクニコ
犯罪が起きるのは、特別な状況というわけではありません。幼児の生活の中に、どんな危険が潜んでいるか知っておきましょう。
●ショッピングモール
人目が多いので安心してしまいがちですが、人が集まる場所では周りに気をとられ、他人への関心が薄くなるもの。また、子どもを連れ去ろうとする不審者を保護者と勘違いして、周囲が見逃してしまうことも。駅前や繁華街などでも同じです。
●イベント会場
親子イベントなど、「子どもが集まる場所」をねらってやって来る不審者もいます。特に、だれでも自由に参加できる場合は、参加者が親子連れだけではない可能性も、心に留めておきましょう。
●車の中
「ちょっとコンビニエンスストアで買い物」「自動販売機で飲み物を……」と、つい車内に子どもを置いてその場を離れた瞬間に、連れ去りに遭ってしまうことも。
●駐車場や駐輪場
自転車や車がたくさん停められていると、陰になり、目が届かなくなります。外出先ではもちろん、集合住宅の駐輪場や駐車場でも、子どもから目を離さないようにしましょう。
●自宅の周辺
自宅の近くは最も心にすきが生まれやすい場所の1つ。集合住宅であっても意外と人気が少ないことが多いのです。また、外階段やエレベーターは密室状態になりやすいので、子どもを1人で行かせないよう、より注意が必要です。
●近所の公園
植え込みや遊具の陰など、死角の多い場所です。さまざまな人が利用するので不審者も見分けにくく、さりげない盗撮やわいせつ犯罪に遭ってしまうことも。また、公園のトイレを使う場合は、子ども1人で行かせず、保護者が付き添いましょう。
子どもにとって危険な場所というと、暗い所や人気のない所ばかりを想像してしまいます。しかし、危険な人がいれば、どこであっても危険な場所になりえます。近年では犯罪が多様化し、「この場所が危険」と一概に言うことは難しくなっています。
そこで危険な場所の目安となるのが、「子どもが1人になりやすい場所や場面」です。特に幼児は、危険に出合ってしまったら、自分だけで対処するのが難しいもの。何か困ったことがあったとき、周囲の助けが必要です。
静かな裏路地だけでなく、繁華街のようなにぎわっている場所や、自宅周辺のような慣れた場所でも、1人になる瞬間があります。1歩外に出たら気を付ける「習慣」が大切です。
不審者は見た目では分かりません。女性であったり、年配であったり、ペットを連れていたりすることもあります。見た目ではなく、言動や態度で判断するくせを付け、どんな人が危険か子どもに具体的に伝えていきましょう。
こんな人には注意!
●しつこく話しかけてくる
●しつこく物を渡そうとする
●どこかに行こうと誘ってくる
●無理に触ろうとする
●無断で写真を撮ろうとする
犯罪から身を守る力は、普段の生活の中で高めることができます。ちょっとした心掛けを取り入れて、習慣化していきましょう。
①積極的にあいさつしよう
町には警察官だけでなく、交通指導員や防犯ボランティア、地域の人など、子どもたちを見守ってくれる人たちがいます。普段から声を掛ける習慣を付けることで、いざというとき人に助けを求める練習にもなります。その際、人と接するときの適切な距離についても教えるとよいでしょう。
②町を歩くときは観察するくせを付けよう
通園や散歩のときには「塀の上にネコがいるよ」「川の音がするね」などと声を掛け、周囲に注意を向けるくせを付けましょう。テーマを決めて物探しをするのも◎。看板など目線より高い所にある物を探すとよいでしょう。
③なんでも話せる環境作り
子どもが少しでも不安を感じることがあれば、すぐに大人に伝えるのが危険を遠ざける第一歩。困ったことがあったとき、いつでも話せる環境を作りましょう。
④簡単な言葉で繰り返し安全確認
「気を付けて」というのは大人の言葉。子どもには何をすればいいかを具体的に伝える必要があります。特に油断しがちな背後は「後ろチェック!」や「だるまさんがころんだ」など、子どもにも分かりやすい言葉で、安全確認を習慣化しましょう。
⑤身近なピンチから考えよう
「知らない人に追いかけられたらどうする?」と、いきなり大きな危険を考えようとしてもなかなか想像できないもの。「公園で急にトイレに行きたくなったら?」と、実際によくある小さなピンチについて親子で考えてみましょう。対処の仕方も具体的に伝えることができます。
⑥動きやすく、周りがよく見える格好を
いざ不審者に出会ったとき、くつが脱げてしまうと逃げることができません。サイズはこまめに確認しましょう。また、荷物もできるだけ小さくまとめ、動きやすい格好を心掛けましょう。
⑦機会を見て、大きな声を出そう
とっさに大きな声を出すのは難しいもの。あいさつは元気に大きな声でする、ドライブ中に大きな声で歌うなど、機会を見て、大きな声を出す練習をしましょう。
犯罪の被害に遭わないための「安全力」には、危険に巻き込まれたときすぐに逃げたり、ピンチを伝えたりする「対処力」と、危険を寄せ付けない「予防力」があります。
「対処力」の弱い幼児には特に「予防力」が大切。周囲を「よく見る」こと、物音を「よく聞く」ことで、危険を早めに察知して遠ざけることが基本です。また、親子や地域の人とのつながりも犯罪を防ぐ力となります。
これらは特別な力ではなく、日ごろのコミュニケーションの延長にあり、だれにでも備わっています。それを引き出すのは、ピンチを想定した練習の繰り返しや、普段のちょっとした心掛けの積み重ねです。危険を避けるための知恵を、今のうちから少しずつ育てていきましょう。
安全力を伸ばすには、言葉で説明するだけでなく、体を使って実際の感覚を身に付けることが大事。遊びながら学びましょう。
●距離間隔UP!新聞棒ゲーム
新聞紙を丸めた棒で、人と接するときの適切な距離感を覚えます。
[遊び方]
2人で向かい合い、新聞棒を人差し指だけで押しながら持ち上げます。そのまま落とさないように上げたり下げたり、押したり引いたりします。慣れたらゆっくり歩いてみましょう。
新聞紙を3枚重ね、長い辺を手前にして巻く。
真ん中と左右をテープで留める。
新聞棒の長さはちょうど、無理なく会話はできるけれど、相手から触られない最低限の距離。知らない人にあいさつしたり、話したりするときは、この距離を保つようにしましょう。
●逃げる力UP!歩き鬼ごっこ
新聞棒ゲームで安全な距離感をつかんだら、動いたり会話をしたりしながら、その距離を保つ練習もしましょう。
[遊び方]
歩きながら鬼ごっこをします。鬼は腕を水平に伸ばしながら、「駅はどっち?」「あめ食べる?」などと話し掛け、逃げる人はそれに答えながら、鬼から逃げます。
会話はできるけど、触られない距離を鬼ごっこを通して体感します。また、相手の様子をよく観察する力も身に付きます。普通の鬼ごっこも逃げる力の基礎になるのでお勧めです。
●よく見る力、よく聞く力UP!だるまさんがころんだ
おなじみの遊び。鬼は子どもがやりましょう。
背後の気配や近づいてくる足音を体験します。また、後ろを振り返って確認する動きの練習にもなります。
●伝える力UP!ジェスチャーゲーム
お題を決めて、ジェスチャーだけで、相手に伝えます。
いざというときは、周囲にピンチを伝えるのが大切。声だけでなく、全身を使って危機を伝える練習になります。
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