将来社会に出たときに本当に役立つ「考える力」とは、どのようなものなのでしょう。また、それを幼児期から伸ばすためには、どのようなことが大切になるのでしょう。小学校で23年間にわたり教べんを執った親野智可等先生にお話を伺いました。
監修/親野智可等(教育評論家) 構成・文/井上 幸 イラスト/朝倉千夏
教師をしていたころ、クラスにサッカーが好きな女の子がいました。あるとき地域のサッカーチームに入りたいと監督にお願いに行ったところ、「女の子はだめ」と断られてしまいます。両親はあきらめましたが、その子はどうしても入りたいと作戦を立て、実行に移しました。まず、サッカーをしたい女の子を集めようと、ほかのクラスを回って仲間を探し、2人見つけました。次に女の子たちとその両親の合計9名で監督に会いに行き、再度お願いをしました。すると、女の子の思いと行動力に心を打たれた監督は入団を許可したのです。
わずか7〜8歳の子が、希望をかなえるために作戦を考え、それを実行したことに感動し、同
時にその考える力に感心した出来事でした。
少女は、「チームでサッカーをしたい」と思い、そのために「やるべきこと」を見い出し、粘り強く努力をしたり、工夫をしたりして、行動に表しました。ここでは次の5つの力が発揮されています。
「考える力」とは、この5つの力の総合力なのです。そして、これらの力は、将来、社会に出たときにも、あらゆる場面で役立つのです。
「考える力」へとつながる5つの力を伸ばすために、心掛けたい習慣を紹介します。
問題設定力とは、自分の好きなことが何なのかを知り、本当にやりたいことを見つける力。この力を付けるためには、親はなんでも「だめ」と言わず、子どもにやりたいことを好きなようにさせることが大切。好きなことを自由にやることで、子どもは本当に求めていることを見つけることができます。
あれこれと、さまざまなものに手を出したり、1つのことに没頭したり、子どもの関心の持ち方はいろいろです。「また、こんなことを始めてしまって……」などと思わず、温かく見守りましょう。
問題解決力とは、自分に必要なことや足りないことに気づき、それを解決する方法を見つけ出す力のこと。できないことや困ったことに直面したときには、親が工夫をして問題を解決する姿を見せたり、「どうするといい?」と問い掛け、一緒に考えたりすることが重要です。
「できなくてだめね」で終わってしまうと、解決しようとする意欲は育ちません。例えば、歯磨きを忘れたら、食卓から見える位置に歯ブラシを置くなど、親子で対策を話し合う習慣を持ちましょう。
自分の好きなことをもっと知りたい、もっとやってみようと思う力が追求力です。親は物事を突き詰める楽しさや充実感を子どもが味わえるように応援しましょう。
絵の好きな子に、親が36色の色鉛筆をプレゼント。その子はきれいな色鉛筆でもっとうまくかきたいと、色を重ねる工夫をしたり、多くの絵をかいたりするようになりました。子どもの関心に気づき、応援することで追求力はアップします。
人が思い付かないことを考え出す力こそが、独創力です。それは、テストで1つの答えを導き出すような力ではなく、たくさんのことを発想する力のこと。親子で遊びや会話の中でいろいろなアイディアを出し合いましょう。お互いの意見は、どんな発想でも肯定することがポイントです。
絵本を読んだとき、「続きはどうなると思う?」などと投げ掛け、大人も一緒になって、楽しくやり取りをしてみましょう。
実行力とは、自分の考えを言葉や行動で表す力です。一緒に何かに挑戦して喜び合ったり、会話の中でお互いの話に共感したり、子どもが自ら「行動したい」「挑戦したい」と思えるような体験を増やしましょう。
行動したり、言葉にしたりすることをちゅうちょしないよう、間違いや失敗を責めずに、できたことを褒めましょう。
考える力は小学校の学びの土台となる大切な力でもあります。幼児教材から、考える力を楽しく伸ばすヒントをもらいましょう。
学研教室では、「考える力」=「ちえ」を伸ばすために、弁別、構成、推理の3つの分野を意識した教材を使っています。
教材には楽しく学ぶ仕掛けが満載。工夫された内容は、日常生活にも生かせます。
弁別とは、物をよく見比べて違いを見つけ、区別することです。
同図形発見
絵の中から、同じ犬を見つけます。よく観察し、違いを見つける課題です。
日常生活では……
買い物で、「これと同じ物を見つけよう」などと、商品を選んだり、取り入れた洗濯物を分けたりしてみましょう。
構成とは、いくつかの形を組み合わせて別の形を作ったり、ある形がどのようにして組み立てられているかを見い出したりすることです。
形の分割
もとの図形をどうやって組み合わせ、新たな図形が構成されているかを考える課題です。
日常生活では……
箱の中に積み木をきちんと整とんして片付けたり、1つのお菓子を人数分に分けたりしてみましょう。
推理とは、目の前にある事実を整理したり予想したりして、答えを導き出すことです。
空欄埋め
並んでいる順番のパターンを見つけ、空欄に入る物を考える課題です。
日常生活では……
ケンケンパのようなリズムやパターンのある遊びで、「次はどうなるかな?」と考えてみましょう。